会津藩校日新館の「什の掟」は、藩士の子どもたちが幼少期に心身を鍛えるために育てられた“規範”のひとつです。年上への敬意、正直さ、弱者への思いやり、言動の節度など、現在でも通じる教えがそこにはあります。白虎隊の育ち舎としても名高い日新館で、什の掟がどのように制定され、どのように守られてきたのか。そしてその精神が現代にどのように息づいているのかを体系的に解説します。
目次
会津藩校日新館 什の掟の定義と歴史的背景
會津藩校日新館は、会津藩の藩士の子弟を対象にした教育機関で、儒学を中心に文武両道を標榜する総合的な教場でした。什の掟というのは、藩校に入学する前の子どもたちが属する少人数の集団「什(じゅう)」で守るべき心得を記したものです。什の掟は、会津藩の教育制度の基礎として、幼少期から子どもたちに人としての義務と礼儀を徹底的に教えるものであり、道徳教育の原点のひとつといえます。
什とは何か
什は、藩士の子どもたちが6歳から9歳くらいで結成する集団で、同じ地域に住む男児10人前後で構成されます。年長者が什長としてリーダーを務め、日常のしつけや責任を分担する制度が組まれていました。群れの中で礼儀や秩序を守ることが重視され、個人ではなく集団の規律が人格形成に影響を及ぼしました。
什の掟が制定された目的
什の掟は、幼少期における礼節の理解、年上への敬意、正直さ、利を求めない精神などを養うことを目的に制定されていました。藩士としてだけでなく、人としてどうあるべきかという基礎を築くものであり、ただ学問や武術を教えるだけでなく、心の教育を重視していたのが特徴です。
歴史的変遷と日新館における什の掟
什の掟は、会津藩の什教育制度の一部として発展し、什ごとに若干内容が異なる例もありますが、「ならぬことはならぬものです」の結びの言葉はすべて共通でした。日新館入学前の幼少期から始まり、10歳で正式な学び舎に入る準備と位置づけられていたため、生涯に渡る礼儀や倫理観の土台となりました。
什の掟の内容とその意味

什の掟は基本的に7か条から構成されており、それぞれに具体的な規範がありました。現代でも子どものしつけや社会人の基本として参考になる道理が含まれています。ここではそれぞれの条項とその背後にある意味を解説します。
年長者の言うことに背いてはなりませぬ
年上の者に対する敬意は、会津藩において最も重んじられた徳目です。什の中で年長者の指導を尊重することは、上下関係の理解、礼儀作法の基礎を学ぶことにつながります。集団行動における調和と自己抑制を養う一歩であり、リーダーシップとともに尊敬を生む文化を育てていました。
年長者にはお辞儀をしなければなりませぬ
これは敬意を形で示す行為です。会津藩では礼儀作法が重要視され、お辞儀一つにも姿勢や態度が指導されました。お辞儀を通じて他者を思いやる心を育み、社会的な礼節を身につけさせるための実践的な教えとされていました。
虚言を言うことはなりませぬ
嘘をつかないという誠実さは、武士道精神の根幹です。什の掟の中で虚言を禁じることは、信頼関係を築くための土台であり、言葉と行動の一貫性、責任感、誠実さを幼い頃から身につけさせることを目的としていました。
卑怯な振舞をしてはなりませぬ
勇気と正義を尊重する教えです。他者を欺いたり、筋を外すことを卑怯と見なし、それを禁じることで武士として胸を張って生きる生き様を教えていました。責任ある行動や厳しい状況での誠実さを育み、自己の尊厳を守るための規範とされています。
弱い者をいぢめてはなりませぬ
力の弱い者をいじめたり、差別することを禁じるのも什の掟の重要な条項です。これは他者への思いやり、公正さ、正義感を育てることを目的とします。武士としての威厳や強さだけでなく、慈悲と良心を併せ持つ人間であることの教えが込められています。
戸外で物を食べてはなりませぬ
規律ある生活のための規則の一つです。戸外での食事が禁止されるのは、身だしなみや場に応じた振る舞いを重んじるためであり、公共の場での慎ましさや礼儀を意識させるものでした。日常の中で自律を育てるしつけの一環です。
戸外で婦人と言葉を交えてはなりませぬ
異性との交わりに節度を求めた戒めです。武士の子どもとしての品位を守るため、言葉遣いや行動を慎むことが教えられました。社会的な慣習や礼節を重視し、将来の武士道や義理人情の礼節を土台から築くための教えです。
ならぬことはならぬものですの意義
什の掟の最後を締めくくる言葉であり、違反してはいけない絶対の基準を示しています。この言葉は什を超えて日新館全体、ひいては会津藩と地域社会における道徳の根幹となりました。簡潔で力強く、子どもの心にも刻まれるフレーズとして今も伝承されています。
什の掟と会津藩校日新館の教育制度との関係
什の掟は、日新館教育制度の中核をなす精神規範であり、文武両道の学び舎である日新館において、教養・武芸だけでなく人格形成を図るための基礎となっていました。藩校制度の教育方法や対象年齢、実践されていた礼節訓練などと併せて、什の掟がどのように実効力を持っていたのかを探ります。
日新館での教育対象と年齢構成
日新館に入るのは10歳からで、幼少期6〜9歳の間に什に参加して教えを受けました。10歳からは素読所を経て礼儀や算術、武術などを段階的に学びます。成績優秀者には大学部への進学や異藩・江戸への遊学が許されるなど、年齢と実力に応じた教育段階が整えられていました。これにより幼児期から青年期まで統合的な育成が行われていました。
什の掟の実践と罰則の制度
掟に反した場合、違反者には什の仲間内で自主的なペナルティがありました。「無念」として謝罪を表すこと、「竹篦(しっぺい)」と呼ばれる罰、「派切り」と呼ばれる仲間外れなどがありました。これらは什長を中心に運用され、仲間の信頼回復のための儀礼や関係修復の機会も設けられていました。
日新館の施設と文武両道の学び
日新館は、漢学・和学・算術・天文学・医学などの文の教育と、剣術・弓術・水練などの武の教育を併せて行う施設でした。水練場や天文台があって、規律・礼節・正義感を持つ人材育成や実践的な教養を重視していました。什の掟による心の教育が、学問と武術の学びに深くリンクしていたことが、他の藩校と比較して優れていた点です。
什の掟の現代への影響と教訓
什の掟は過去のものに留まらず、現代社会においても教育や倫理観の観点から貴重な教訓を提供しています。子どもの礼儀作法だけでなく、地域コミュニティや職場などにおける人間関係にも活かせる教えであり、現代人が忘れがちな義・礼・誠などの価値を再確認できます。
現代教育における倫理教育との共通点
年長者への敬意、嘘をつかないこと、弱い者をいじめないことなどは、現代の道徳教科や学校教育で教えられている基本倫理と重なる部分が多いです。什の掟は、子どもたちの自主性を尊重しながら、集団の中で責任と礼儀を学ぶ点で、今日の教育改善・しつけ論のヒントとなります。
地域社会とコミュニティでの活用
地域の子ども会や町内会など、小さな集団でのルールづくりに什の掟を参考にすることができます。尊敬・誠実・思いやりなどの要素を日常に取り入れることで、信頼関係や互助の精神が育成されます。現代では家庭や地域での実践が求められる課題です。
企業・組織文化における教えとして
社会人にとっても、リーダーへの敬意、名誉・正義の行動、誠実さなど什の掟の教えは普遍的なものです。組織におけるモラル規範や職場倫理として、什の掟の精神を発展させた価値観を共有することで組織風土の健全化やチームワークの強化につながります。
什の掟の言葉が生きる現代の事例
現在、会津若松市内や教育現場では、什の掟の教えを“あいづっこ宣言”として子どもたちに伝える活動があります。礼節や地域の誇りを育むため、児童館や小学校の道徳の時間に什の掟を学ぶプログラムが導入されていることもあります。地域ブランドや観光資源としても、什の掟と日新館の関係性は人々を惹きつけています。
什の掟と日新館の精神が宿る施設と体験
復元された日新館の施設では、什の掟が守られていた歴史を体感できる展示や体験が整備されています。施設見学だけでなく、武道や礼節、民芸など様々な体験を通じて什么の掟の精神が肌で感じられる構造が備わっています。
復元された建築と展示物
日新館は1987年に完全復元され、講義室や武道場、水練池、天文台跡など当時の施設の姿を再現しています。展示室には什の掟の条項そのものが掲示されており、子どもたちがどのような環境で育ったかを雰囲気で感じることができます。
礼節・武道・文の体験プログラム
訪問者は弓道・坐禅・茶道・絵付けなどの体験を通じて、什の掟の教えがどう人間の行いとして具現化されていたかを体感できます。礼儀や慎み、集中力、誠実さなど、体験を通して得られる学びが多いことが特徴です。
学びの場としての見学と教育連携
学校や地域団体の見学コースが整っており、什の掟をテーマとしたガイドやワークショップが行われます。子どもたちが自ら考え、討議する形式で将来の行動規範を確認する仕組みもあり、知識だけでなく内面の成長を促す最新の教育手法が取り入れられています。
什の掟が教える道徳・人づくりとしての本質
什の掟は単なる古い教えではなく、人としての根本を成す徳を育てる教えです。義・礼・誠などの基本的な価値観が含まれており、これらが人間同士の信頼や秩序、社会の平和を支える要であることを、什の掟を通じて学ぶことができます。
義を重んじる精神
什の掟が教える義とは、利を追わず、正しいことを行う強さでもあります。年上への敬意、嘘をつかないこと、卑怯を避けることなどが義の現れであり、義を重んじることで自己の尊厳や社会的信頼を獲得します。それは日新館が藩士たちに植え付けた根本的な価値です。
礼節と他者への配慮
お辞儀をすることや言葉を慎むことなどは、礼節の表現です。これにより他者を敬い、相手を思いやる気持ちが育ちます。礼節は単なる形式ではなく人間関係を円滑にするための潤滑油であり、現代でも絶対に失われてはならない教えです。
責任と自律の芽生え
什の掟を守るということは、自分を律し、仲間との関係を意識することです。ペナルティを含む制裁制度も、自律を育てる訓練として作用しました。他者に依存せず、自分の行動に責任を持つ態度は、社会人としての基礎でもあります。
真の誠実さと正義感
嘘をつかない、弱きをいじめない、卑怯な振舞いをしないことは誠実さと正義感を育てる行動規範です。武士として立つだけでなく、人として尊敬される人格を築く基礎であり、什の掟はその教えを幼い時期から体内化させるための教育制度の一部でした。
まとめ
什の掟は、会津藩校日新館の藩士の子どもたちに与えられた教えの一つであり、「年長者への敬意」「誠実さ」「礼節」「他者への思いやり」など生きる上で普遍的な価値を含んでいます。幼少期からこうした規範を守ることで、集団の中での責任感や自律が育まれ、武士としてだけでなく人としての基礎が築かれました。
また、什の掟の言葉で締めくくられる「ならぬことはならぬものです」は、誰にとっても生き方の指針となるフレーズです。現代では教育現場や地域社会、職場などでこの教えを再評価する動きがあり、礼節や誠意を重んじる態度の回復につながっています。
會津藩校日新館を訪れることで、什の掟がどのように実践され、どのように人々の心に刻み込まれてきたかを体感できます。規則や掟を知ることは、過去の理解だけでなく、自分自身の価値観を見つめ直す機会を与えてくれるでしょう。
下郷町ライブカメラ
コメント